韓国のネット掲示板「ILBE」で、韓国と日本のIT業界における新卒社員の年収や福利厚生を比較した投稿が話題になっています。
投稿のタイトルは「韓国 vs 日本 IT新入社員の年収・福利厚生1:1比較」というもの。
掲載された資料では、韓国と日本のIT系新卒社員について、給与や福利厚生などを比較。その内容を見た投稿者は、日本での就職を選択肢として考えるべきではないかという趣旨のコメントを投稿しています。
さらに投稿者は、日本で働く韓国人が増えていることにも触れ、「能力があるなら日本で就職するのもいいのではないか」と主張しました。
韓国のネットユーザーからも、日本の雇用環境についてさまざまな意見が寄せられています。
ただし、今回の比較には注意して見るべきポイントもあります。
日韓のIT新卒、給与だけを見ると単純比較は難しい
今回の投稿で特に注目されたのが、新卒社員の年収です。
韓国では、大企業やIT企業の新卒社員に比較的高い給与を提示するケースがあります。一方、日本では新卒一括採用を前提とした給与体系が多く、入社時の給与だけを見ると韓国の大企業より低く見えるケースもあります。
実際、2026年に紹介された日韓の大卒初年度年収比較では、韓国の大卒新卒者の平均年収が約4万6111ドル、日本が約3万7047ドルとされ、韓国のほうが高いという結果も報じられています。
ただし、これはあくまで一定の条件に基づいた国際比較です。
国や企業によって給与体系は異なり、基本給だけでなく、賞与、住宅手当、食事補助、退職金、社会保険、残業代なども考慮する必要があります。
また、韓国でも大企業と中小企業の待遇差が大きいため、「韓国の新卒は全員日本より高給」と考えるのも正確ではありません。
つまり、今回の投稿にある数字は「日韓のIT業界全体を完全に比較した結果」というより、特定の条件下で両国の待遇を比較した資料として見るのが適切でしょう。
それでも韓国人が日本で働く理由とは?
興味深いのは、給与だけを見ると必ずしも日本が圧倒的に有利とは言えないにもかかわらず、韓国人の日本就職が一定の規模で続いていることです。
日本貿易振興機構(JETRO)が韓国人材の日本就職について行った取材では、日本企業側が韓国人材に期待している能力として、日本語や英語などの語学力、国際的な環境への適応力などが挙げられています。
また、日本で働くことを希望する韓国人材の中には、給与だけではなく「日本語を使いたい」「日本で働きたい」といった理由で就職先を選ぶ人もいると紹介されています。
これは非常に重要なポイントです。
海外就職では、単純に「どちらの国の給料が高いか」だけで判断することはできません。
例えば、
・仕事の安定性
・勤務時間
・休日数
・住宅費
・通勤時間
・社会保険
・福利厚生
・昇給制度
・転職のしやすさ
・将来的なキャリア
などを総合的に考える必要があります。
特にIT業界では、会社によって仕事内容や待遇が大きく違うため、「日本のIT企業」と「韓国のIT企業」を一括りにすることも難しいでしょう。
日本で働く外国人は実際に増えている
一方、日本の外国人雇用そのものは拡大しています。
厚生労働省が2026年8月31日に公表した「令和7年外国人雇用実態調査」によると、一定規模以上の事業所における外国人労働者数は約204万人となりました。
そのうち「専門的・技術的分野」が42.1%を占めています。
これはITエンジニアなどの高度人材を含むカテゴリーで、外国人労働者の受け入れが単純な人手不足対策だけではなく、専門人材の確保という側面も強くなっていることを示しています。
さらに、外国人を雇用する理由として最も多かったのは「労働力不足の解消・緩和」で68.2%。
その次に「日本人と同等またはそれ以上の活躍を期待して」が56.2%となっています。
つまり、日本企業側にも外国人材を積極的に採用する理由が存在しています。
韓国人にとって日本は「近い海外就職先」
韓国人にとって、日本は地理的にも文化的にも比較的アクセスしやすい海外就職先です。
日本語を習得している人にとっては、日本企業への就職という選択肢を取りやすく、特にIT、ゲーム、コンテンツ、観光、ホテル、航空などでは韓国人材を求める企業もあります。
JETROも、日本企業が韓国人材を採用する理由として、高い語学能力や競争環境を成長の原動力にできる点などを挙げています。
また、日本では理工系人材の確保が難しくなっており、外国人材への採用ニーズが存在することも指摘されています。
そのため、韓国側から見れば「日本に行けば誰でも高待遇」という話ではなく、専門性や語学力を持つ人材ほど日本就職の選択肢が広がりやすいと考えたほうがよさそうです。
「8万人が日本へ」という数字には注意
今回のILBE投稿では、日本へ働きに行く韓国人がすでに8万人規模になっているという趣旨の記述もあります。
ただし、この数字をそのまま「韓国人IT人材が8万人日本へ移住した」という意味で受け取るのは危険です。
日本の出入国在留管理庁によると、2025年末時点で日本に在留する韓国籍の人は約40万7000人。
この数字には、就労者だけでなく、永住者、留学生、家族、日本人配偶者などさまざまな在留資格の人が含まれています。
したがって、ネット掲示板に掲載された「8万人」という数字については、その定義や対象となった在留資格を確認しなければ、日本就職者数として断定することはできません。
ネット上の数字を見るときには、こうした統計上の違いにも注意が必要です。
日本企業の待遇にも変化が起きている
日本の企業側も、外国人を含めた人材確保を以前より重視するようになっています。
人手不足が続く中、企業は給与だけでなく、柔軟な働き方や福利厚生、研修制度などを充実させ、人材を確保しようとしています。
特にIT分野では、企業によっては外国籍社員向けの日本語研修や、リモートワーク、フレックスタイム、住宅支援などを用意しているケースもあります。
そのため、現在の日本のIT就職を考える場合、「日本だから給料が低い」という単純な見方も適切ではありません。
企業ごとの差が非常に大きくなっているからです。
韓国ネットで注目された理由
今回の投稿が韓国ネットで注目された背景には、「海外で働く」という選択肢が以前より現実的になっていることもありそうです。
韓国国内の就職市場では、大企業や人気企業への就職競争が激しく、若者にとって就職先の選択肢を広げることは重要なテーマになっています。
一方、日本企業からすれば、ITや理工系の専門人材を確保することが課題になっています。
この両者の事情が重なることで、韓国人の日本就職という流れが生まれています。
実際、日本で働く外国人を対象にした厚生労働省の調査では、現在の会社で働き続けたいと回答した人が81.2%に達しています。
もちろん、この数字だけで「外国人の大半が日本で満足している」と断定することはできません。しかし、日本で働くことが必ずしも一時的な選択ではなく、長期的なキャリアとして選ばれているケースがあることは分かります。
結局、日本と韓国はどちらが働きやすいのか
今回の比較で最も重要なのは、「日本と韓国のどちらが上か」という結論ではないでしょう。
韓国の大企業やIT企業では、新卒段階から高い給与を得られるケースがあります。
一方、日本では給与以外の福利厚生や雇用の安定性、企業文化、キャリア形成などを含めて判断する必要があります。
そして、同じIT業界でも、サムスンやSKのような韓国の大企業と、日本の中小IT企業を比較すれば当然結果は大きく変わります。
逆に、日本の大手IT企業と韓国の中小企業を比較すれば、まったく違う結果になるでしょう。
海外就職を考える人にとって本当に重要なのは、国単位のランキングではなく、「自分の専門性なら、どの企業でどのような待遇を受けられるのか」という視点です。
今回のILBE投稿は、日韓の給与差をめぐる議論として注目を集めました。
しかし、その背景を調べてみると、日本の外国人雇用は拡大しており、専門的・技術的な人材への需要も存在しています。
韓国人にとって日本は、単に「給料が高い国」だから選ばれているわけではありません。
語学力やITスキル、専門性を持つ人にとって、キャリアの選択肢の一つとして日本が現実的になっている――今回の投稿から見えてくるのは、むしろそうした日韓の労働市場の変化なのかもしれません。